悠久の国マケドニア:太陽の恵みとオープンなホスピタリティ

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マケドニア ― この地は、太古の昔から文明が栄え、そして地理的に数々の支配者を経験してきた。では、マケドニア人のルーツはどこだとお考えですか。アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ駐日大使は「すべてですよ。」とお答えになった。年間約280日が晴れの日に恵まれ、豊かな大地が生み出すとびきりの食材と優しく素朴な人々。今回は都内の大使館において、ツヴェトコビッチ大使のお母様の手料理にお招きいただき、素顔のマケドニアを思う存分垣間見させていただく取材となった。

「母は今回初めて飛行機に乗ったんです。」大使の言葉に、いきなり心をゆさぶられてしまった。「バルカン半島料理のシェフにも・・・(何人か)直接お会いしてみたのですけれど・・・本当のマケドニア料理の味をだせるのかは確信がもてなかったですし。」「マケドニアでは、家にお客さんが来るときは、手料理でのおもてなしに力を尽くします。これは私たちのホスピタリティなんです。」自分が本当においしいと思うものを、心をこめて自分で責任をもって作り上げ、人をもてなす。そういうことなんだろうとすでにこの部分で察し始めていた。

ところが、料理の説明をいただいて、さらに驚く。とにかく準備にとてつもない手間と時間がかかる、なにからなにまで手作りの手の込んだものばかりだったからだ。

spices close

庭の見えるダイニングテーブルは、赤のチェックのテーブルクロスに土器に入った料理が並ぶ。外はさんさんと太陽が輝く庭。黄色と赤の底抜けに明るいマケドニアの小さな国旗がとても似合う食卓だ。まだ見ぬ古き良き欧州のかの地に思いをはせる。大使のお母様、シェケリーナさんがほんとに太陽みたいな笑顔で料理をはこんできてくださっている。

まずは土器の小さなカップにはいった、マケドニアの伝統のお酒、ラキア(RAKIA)で乾杯。マケドニアでは、ラキアは伝統的に一般家庭でつくられているそう。工程は複雑ではないのだけれど、しっかりとした経験とケアがないと、いいラキアはつくれないのだそうだ。マケドニアの伝統では、これをちびりちびりといただきながら、前菜、メゼ(MEZE)をいただくのだ。

A glass for rakia.

A cup for RAKIA

最初のメゼは、マケドニアの典型的なサラダだという、ショプスカ・サラタ(SHOPSKA SALATA)。太陽のようなデコレーションになっている。中には、トマト、キュウリ、たまねぎ、そしてシェケリーナさんが地元からはこんできてくださった、マケドニアのフェタに似たチーズ。太陽の真ん中の部分になっているレモンを絞り、オリーブオイルと塩こしょうで混ぜ合わせる。まさに素材のよさが勝負のシンプルでさわやかなサラダだ。マケドニアのフェタは、今まで食べた他国のものよりも味わいがずっとマイルドでくせがあまりなく、塩分も控えめ。こんな晴れの日に、窓を全開にし、心地よい空気を吸いながら素材の味を正面からかみしめると、体の隅々までさわやかで健康的な気分になれる。つぎのメゼは、カチャマック(KACHAMAK)。コーンミールでできており、イタリアのポレンタに近い。クランブル状にしたフェタチーズのコク、ヨーグルトのさわやかな酸味、口の中でコーンミールのわずかな甘みのコンビネーションがいい。食感は今までに経験したことのない感じで、細かくプルプルとした弾力をコーンミールのつぶつぶから感じる。

shopska salata close

そしてマケドニアが誇る伝統のパプリカペースト、アイヴァル(AYVAR)をのせたオープンサンド。パプリカをまるごと火にかざし、ローストしてから手で皮をむき、じっくりと煮込んである。うまみがぎゅっと凝縮され、ロースト時の香ばしさがほんのささやかに残っている。マケドニア人は、いまでも夏のおわりに大量にパプリカを市場で購入し、この手のかかる伝統の保存食を手作りする人が多いそうだ。30kgの生のパプリカに対して10ビン分しか作れないような代物だから、ご近所を集めて、秋のイベントみたいにしてワイワイ作るのだそう。また、大使のお話では、在マケドニアの外国の大使館も、みんなで作って楽しんでいるところもあるそうで、赴任がおわったときにアイヴァルのビン詰をいくつも持って帰国する外交官がいるそう。それも納得、まず一緒にのんびりと作る作業もたのしそうだし、なんといっても、こんなパプリカの絶妙な味わいの深さは、味わったことがない。

Traditional paprika paste, ajvar, with Macedonian cheese on top.

Traditional paprika paste, AYVAR, with Macedonian cheese on top

そしてメインディッシュ。マケドニアを代表する料理、タフチェ・グラフチェ(TAFCHE GRAFCHE)。じっくりゆでた後に土器で長時間オーブンで焼いたのに、豆が煮くずれていない。この料理をこうやって作るには、かなりの熟練した腕が必要とのこと。また、この豆は、一見ヨーロッパでよくありそうなタイプの見た目なのだが、マケドニア産のものでないと、煮くずれがおきてしまうし、なにより本物の味はでないと、やはり大使がお母様にお願いして現地から調達をしたこだわりの料理なのだ。しかし、気持ちはよくわかる。例えば炊いたご飯の美味しさは、国によってその美味しさの種類が全く違う。ワインでよく言われるようなことであるが、料理というのは、使われている材料の品種だけでなく、年月をかけて培われたコツと知恵、そして素材を育てた土地の香り、水の味、気候などの微妙な加減が味わいを作り上げていくのだろう。

ところでタフチェ・グラフチェお味のほうは、豆が辛抱強く土器の中で長い間調理され、マケドニア独自のパプリカとスパイスとハーブを混ぜたソースとじっくりとなじみ、家族になったのかな、というイメージ。素朴なようで複雑で味わい深い。遠い国の初めていただく料理なのに、親しみと優しさが体の中にすっと入っていくような深くマイルドな味わいだった。

そして忘れられないマケドニア伝統のぐるぐる巻きのパイ、ヴルテナ・ピタ(VRTENA PITA)。コイル状に巻かれているパイの一部をちぎりとっていただく。中に西洋ねぎとザワークラウトが入っているのだが、お野菜にくせがなくマイルドかつ味わい深く、表面はパリッとしているのに中はやわらかくほどよくしっとりとしていて、とてもおいしい。お野菜が入っているこのパイをこういった食感でつくるのは、とても技術がいるとのこと。実はいままでそんなにパイは得意なほうではなかったのに、このパイはとにかくおいしくて、パクパク食べてしまった。それを見ていたお母様が微笑んで、そっとキッチンに消え、完璧なぐるぐる巻きが入った新しい土器をもって戻ってきた。この明らかに手がかかりそうな料理をもう一つ用意していたのだ。先を見越した心づくし。素材の選択から料理の隅々にいたるまでの細かい気配り。大使が冒頭でおっしゃった、マケドニアの「手料理をつくしておもてなしをする」という言葉の意味を、じんわりじんわりと食卓のあちこちから感じてきた。

vrtena pita

VRTENA PITA

ところがさらに驚くことに。大使によれば、マケドニアでは、「知らない人を家に招待するのはわりとある話なんですよ。」とのこと。「たとえば、車が故障した人に道で会ったとか、あなたたちみたいな外国人が道に迷ったとか。タクシーの運転手にこういう料理はどこで食べられるのかと聞いたとしますね。そうすると、“ああ、うちの奥さんが作るタフチェ・グラフチェは最高ですよ”なんて運転手が言いだして、翌日食事に招待されるとか。」そんなことがあっても全然おかしくないほど、マケドニアの人は、そしてさらに田舎へ行けばいくほど、人懐こくて温かく、ホスピタリティにあふれるのだという。「特に外国人である必要もないし、(国内の)他の地域から来た人にも親切なんです。マケドニアに行ったら、びっくりすると思いますよ。」とのこと。

そしてそんなマケドニア人の気質のヒントは、彼らが守り続けてきたオープンなおもてなしの伝統に見ることができる。

マケドニアの家庭では、家族の守護聖人のお祝いをする習慣があるが、その際は、その聖人ごとに異なる季節の料理をたくさん作り、家を3日間開放し、未知の客人をもてなすために備えるそう。そしてこういったお祝いは、宗教のためというよりは、それをきっかけに続いているもてなしの伝統行事で、手料理によって訪れる人に敬意を示す、ということに重きが置かれているのだそうだ。

The ambassador's mum, Shekerina cooks tafche grafche in Tokyo

The ambassador’s mum, Shekerina cooks TAFCHE GRAFCHE in Tokyo

お母様がさらに手作りのお菓子を数品抱えてきてくださった。月の形をしたグラビイイ(GURABII)とお花の形をしたヴァニリチ(VANILICI)。やわらかい素朴なショートブレッドの上に手作りのジャムがのっている。そのほかにチョコレートで作ったバナナ味のケーキも。

choco sweets

デザートをいただきながら、とっておきの質問をしてみた。

ご自分の国のどこが一番好きですか?

大使は、大自然と人々の親切、とのこと。やはりそこだろう。もし道に迷ってしまっても、親切な人が道を教えてくれたり、助けてくれるはず。マケドニア人は、人との間に壁をつくらないのだ、とおっしゃる。

お母様にも聞いてみた。大使が通訳してくださる。

「人ね。フレンドリーだわ。そしてとても食べ物がおいしいところね。」

大使が微笑む。「母は、マケドニアの料理が世界一美味しいっていうの。イタリア人みたいよね。」とおっしゃる。「そうね、私はたくさんの場所に行ったことがあるけれど、マケドニア料理は、世界一とは言わないけれど、世界のトップレベルと言っておきますね。私は大使だし、私が世界一と言ったら、ずいぶんと主観的な感じだものね。」「でも、マケドニアの果物と野菜は世界一だと言い切れますね。」

そういえば、とある世界的に有名なシェフが、子供のころに食べたマケドニアのトマトについて熱く語っていたのを思い出した。いったい、どんなトマトなのだろう。

「マケドニア料理の美味しさの秘密は、環境だと思います。土は肥沃で、食べ物はどこでも育ちますし。野菜や果物は大きくてとても美味しい。大地も、太陽も、私たちの国は恵まれています。」

shopska salata

そして大使が続けた。外国に住んでみると、自分がどんなところを出身とする人間なのか、気づかされる、と。そしてちょっと笑って、私、マケドニア人って、この豆料理の豆みたいだと思うんです、とおっしゃる。「考えてみると、マケドニアの人って、この豆みたいに強い。いい意味で頑固ね。マケドニア人は歴史の中で何度も侵略されてきましたから。」「この豆料理の調理には、長い時間がかかるでしょう?これって、マケドニア人みたいです。頑固というより、耐え抜く力がある。そして、シンプルかつ特別なものを作り上げて、それを誇りにしているんです。」

そういう自国の人たちの素朴な哲学と親切さに、大使自身もインスピレーションをうけるとのこと。

何かを続けてやるということは、いずれ大きな結果を生み出す。そういう普遍的な哲学だけれど、人が簡単に忘れてしまいがちなことを、マケドニアの人は分かっているのだ。

「マケドニアは非常に古い国です。」「25世紀以上もの歴史があります。」「時間をはかる単位が一年の人たちもいますが、私たちは世紀単位で時間をみているのです。だから、何かを成し遂げたかったら、長い時間待つの。辛抱強く。そして自分たちの伝統を貫くんです。」

smiling mum

そんな精神は、大使の心にも深く宿っているのだろう。

多くの人は、何かをしても途中でやめてしまうのが達成できない一番の理由なんじゃないかしら、と。続けるって、大切なことよ、とおっしゃる。

Andrijana Cvetkovik, the youngest ambassador in Tokyo.

Andrijana Cvetkovik, the youngest ambassador in Tokyo

悠久の国、マケドニア。その歴史と太陽と土地に根ざしたオープンで温かなおもてなしの伝統を貫く素敵な人たちに会いに、ぜひ訪れてみたい。初夏のさわやかな夕暮れ、この東京の片隅の小さなマケドニアで、心を大きく動かされる素敵な出会いに感謝して帰宅の途についた。

Story by: Rika Sakai

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マケドニア政府公式のマケドニアの食事と観光に関する紹介ビデオをみつけました。なかなか素敵です。

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